東京高等裁判所 昭和37年(ネ)1406号 判決 1963年6月27日
被控訴人 常陽銀行
理由
当裁判所もまた控訴人の被控訴人に対する本訴請求を棄却すべきものと判定したが、その理由は、左記に補足するほか原判決理由の示すところと同じであるから、その記載を引用する。
本件建物が金塚節の所有に属すること、節は、その長男金塚誠名義で映画館の保存登記を経由したうえ、被控訴銀行との間に本件建物に関して、債務者をアサヒ産業株式会社(金塚節はその代表者)、連帯保証人兼担保提供者を金塚誠、連帯保証人を金塚節とする根抵当権設定契約を締結し、控訴人の主張する三個の根抵当権設定登記を経由したこと、右設定契約の締結と登記(保存登記を含む)の手続は一切節と被控訴銀行との間で行なわれ、誠は全然これに関与していないことが原審挙示の証拠によつて原審どおり肯認できる。
控訴人は、右各登記は真実の権利関係に合致しない無効のものであると主張する。なるほど誠名義をもつてなされた所有権保存登記は、誠において真実所有権を保有しているわけでないから、実質関係に合致しない無効のものというべきである。したがつて、登記と実質関係を合致させる方法として、実体上の所有者である節から不正の登記名義人の誠に対し右保存登記の抹消を求めるか、またはその抹消に代えて移転登記を求めることは一応可能と考える。その場合、控訴人主張のように、保存登記が節の意思にもとづいてなされたかどうかは問うところでない。ただ、本件では、被控訴銀行のため目的物件につき根抵当権設定登記が経由されており、登記簿上利害関係ある第三者の存する場合にあたるから、抹消登記の方法を択ぶことは、被控訴銀行の承諾を得ないかぎり、これを許すわけにはいくまい。もつとも、根抵当権設定契約が無権利者である誠とそのことにつき悪意の被控訴銀行との間になされたというような場合ならばその承諾も要らないであろう。しかし、本件は、前記のように、節が自己の所有物件につき被控訴銀行との間に自ら契約を結んだものである。ただ、担保に供せんとする右物件がたまたま長男の名義に保存登記されているところから、その名義のままこれを根抵当の目的としたに過ぎない。相手方である被控訴銀行がその事情を知つて契約を結んだとしても両者の関係を控訴人が主張するような通謀虚偽表示と目すべきではない。
このように、登記簿上利害関係ある第三者の存する以上、節としては誠から移転登記を受ける方法によつてのみ登記名義を回復するほかないわけである。(現行法上、誠を節へと権利者の名義を更正する手続は許されていない。)ともあれ、本訴の原審において、控訴人は、誠に対し節への移転登記を求め、その請求は原審で認容され、すでに確定していることは記録上明らかである。したがつて、この移転登記によつて節が登記名義を回復すれば、節と被控訴銀行間の根抵当権設定契約関係は如実に登記簿に反映され、ここに、登記と実質関係の合致を見るにいたるわけである。そうだとすれば、節をして、そのうえさらに、被控訴銀行との間の根抵当権設定登記の抹消まで求めさせる何らのいわれはないものと考える。節の単なる債権者に過ぎない控訴人は、節と立場を同じくするものであるから節を代位して右登記の抹消を求めえないといわざるをえない。
したがつて、控訴人の請求を棄却した原判決を相当とする。